「首を抜く話」(横溝正史)

初期の横溝、ブラックだけどユーモラス!

「首を抜く話」(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説選Ⅰ」)論創社

戦争のために
四肢を失った将軍がいた。
幸いにも金に
不自由していなかったため、
精巧な義手義足を
つくることができ、
普段は誰も彼の不幸に
気づかなかった。
ただし、寝るときだけは
邪魔なそれらを
老僕に抜かせていた。
ある日…。

1930年に横溝正史が書き上げた、
わずか3頁あまりのコント小品です。
両手両足を失った将軍は
その後どうなったか?

【主要登場人物】
将軍
…戦争によって四肢を失う。
 人里離れた邸宅に
 老僕と二人で暮らす。
老僕
…将軍に仕えていたが、病気により
 役目を終える。
新しい召使い
…老僕に代わって将軍に仕える。

新しい召使いは、
将軍の義手義足について
老僕から引き継ぎを
受けていなかったのです。
将軍がいつものように
「この足を抜いておくれ」と言っても
ピンとこなかったのですが、
言われるまま引っ張ると
抜けてしまうわけです。
そして両足両手を抜いたところで、
よせばいいのに将軍は
悪戯を仕掛けてしまいます。
「さあ今度はいよいよ首を抜く番だ」
若い召使いは恐怖が頂点に達し、
叫び声を上げながら
将軍の屋敷から逃げ帰っていくのです。

さて、義手義足を外されたまま、
若い召使いに逃げられた将軍は
どうなったか?結末は
書かなくとも想像できるでしょう。
本作品はコント、
それもかなりブラックなのですが、
初期の横溝ならではの
ユーモアに満ちた作品でもあるのです。

ところで戦争によって
四肢を失う兵士といえば、
思い起こすのは乱歩「芋虫」でしょう。
こちらは四肢損傷だけでなく、
聴覚と言語も失い、
最後には視覚すら奪われます。
何ともおぞましい、
後味の悪い展開であり、
読後に感じる不快感ワースト作品と
なっています。

面白いことに
乱歩の「芋虫」は1929年発表、
本作品の一年前なのです。
横溝は乱歩の「芋虫」を参考にしたのか、
それとも乱歩の向こうを張ったのか、
あるいは
「芋虫」のパロディを狙ったのか、
普段から交流の浅からぬ両者です、
乱歩に対して何らかの思いを持って
横溝は本作品を書いたのではないかと
想像したくなってしまいます。

乱歩と横溝、どちらも
暗さに満ちた犯罪を素材として
作品を編んだのですが、
乱歩がその創作時期のいずれにおいても
重厚かつ猟奇的退廃的な作品を
創り上げたのに対し、
横溝の場合は、初期作品においては
コントを含む
ユーモラスで軽妙洒脱な作品が
いくつも見られるのです。

かつてはその多くが埋もれていた
横溝初期作品ですが、
角川文庫「双生児は囁く」
「喘ぎ泣く死美人」、
出版芸術社
「横溝正史探偵小説コレクション」、
そしてこの論創社
「横溝正史探偵小説選」の
相次ぐ出版により、
読むことが可能となってきました。
ただし、本書は
値の張るハードカバーの単行本です。
無理を承知で、将来の
文庫本化を期待したいと思います。

「横溝正史探偵小説選Ⅰ」
 収録作品一覧

霧の夜の出来事
ルパン大盗伝
海底水晶宮
恐ろしきエイプリル・フール
化学教室の怪火
卵と結婚
十二時前後
橋場仙吉の結婚
恐ろしき馬券
悲しき暗号
宝玉的道話集
お尻を叩く話
首を抜く話
博士昇天
足の裏 共犯野原達男の告白
五つの踊り子
妻は売れッ児 甘辛夫婦喧嘩抄
黄色い手袋
五万円の万年筆
ドラ吉の新商売
コント・むつごと集
陽気な夢遊病者
堀見先生の推理
榧の木の恐怖
評論・随筆・読物篇

(2021.12.5)

Peter HによるPixabayからの画像
created by Rinker
¥3,520 (2024/05/18 19:06:28時点 Amazon調べ-詳細)

【関連記事:横溝ノンシリーズ作品】

【論創社「横溝正史探偵小説選」】

created by Rinker
¥3,520 (2024/05/18 22:37:22時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥3,740 (2024/05/18 19:06:30時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥3,960 (2024/05/18 12:57:24時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥3,960 (2024/05/18 19:06:29時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥858 (2024/05/18 05:48:24時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA